【クルクル -QRコードリーダー】読み取りの速さの秘密

商品パッケージやチラシ、今や決済にも活用されているQRコード。
誰もが一度は目にし、利用したことがあるであろうこのQRコードの開発に携わった一人が株式会社デンソーウェーブの渡部元秋(わたべ もとあき)さんです。

その渡部さんが読み取りの要である読み取りエンジンを開発したQRコードリーダーアプリ「クルクル – QRコードリーダー」は、かざしただけで読み取れると定評があります。「なぜ速く読み取れるのか」「どうやって高精度を保っているのか」、これまで明かされなかった知られざる開発の裏舞台について渡部さんに迫りました。

「新しいQRコードの世界」実現に向け誕生したリーダーアプリ

デンソーウェーブ渡部さん

──さまざまなQRコードリーダーアプリが出回る中で、あえて「クルクル – QRコードリーダー」を世に送り出そうとしたきっかけは何だったのですか。

渡部さん:みなさんご存知の通り、QRコードはすでに全世界に広がっています。デンソーウェーブでは、QRコードの特許は保有しているものの、権利行使していないため、誰でも特許料を支払わずに利用できることがQRコード普及の手助けになったと言えます。

1994年に公開して10数年が経った時、「もっと幅広く活用される新しいQRコードの世界を作りたい」という想いが生まれました。それを実現するためには、「新しいQRコード」と「新しいQRコードを読み取ることができるQRコードリーダー」が必要でした。

──「新しいQRコードの世界」に向けて、「クルクル – QRコードリーダー」が作られたのですね。ということは、「新しいQRコード」も作られたのでしょうか。

フレームQR
フレームQR

渡部さん:はい。「フレームQR」というQRコードを新たに開発しました。これは、QRコードの内部に自由に画像を入れられる領域をもつQRコードで、フレームの形状や色も自由に変更できるものです。

「クルクル – QRコードリーダー」では、通常のQRコードに加え「フレームQR」も読み取ることができます。今後もさまざまなQRコードの読み取りに対応する予定です。

 

産業用製品で培った技術が支える「読み取りスピード」

デンソーウェーブ渡部さん2

──「クルクル – QRコードリーダー」は、アプリストアのレビューでも読み取り速度に対して高評価を得ています。なぜ他のリーダーアプリより速く読み取ることができるのでしょうか。

渡部さん:「クルクル – QRコードリーダー」は、他のリーダーアプリに比べ「ピント合わせ」「データ解析」にかかる時間を短くしたため、ユーザのみなさんには読み取りが速いと感じていただいているのだと思います。

まず一つ目の「ピント合わせ」ですが、スマートフォンアプリのエンジンはスマートフォンの画面に「QRコードらしいもの」が写ると、本当にそれがQRコードなのかを判断するために時間を要します。この時間を短縮するために、独自のアルゴリズムをエンジンに組み入れ、QRコードにピントが合う前に「QRコードだ」と識別できるようにしました。

次に「データ解析」ですが、解析に要する時間は画像のデータ量(サイズ×画質)により異なります。QRコード内の特定部分(QRコードだと判断できる部分)を低画質の状態でも解析できるようにしたことで、データ量を最低限に抑え、読み取り速度のアップを実現しました。

──「ピント合わせ」「データ解析」の時短を可能にした「読み取りエンジン」は、スマートフォンアプリ向けに新しく開発したのですか。

渡部さん:いいえ。実はこの技術が生まれた背景には、デンソーウェーブでもともと開発していた産業用ハンディスキャナーの存在があります。産業用スキャナーは、スマートフォンのハイエンドタイプと比べて、1/5~1/6程度の性能のCPU(※)を使用しています。これは、コストや動作時間を考慮しているためで、オートフォーカス機能も搭載していません。ただ、そのような条件下でも製品として出すからには「高精度・高速度の読み取り」を実現しなくてはなりません。それゆえ、遠くや近くの多少ボケた画像でも解析できるエンジン開発が私達の課題でした。(※CPU=コンピューターの中枢部分にあたり、各種装置の制御やデータ処理をする)

社内で長年研究しつづけてきたこの技術をスマートフォンアプリの読み取りエンジンとして活かすことにしたのです。

産業用スキャナーと活用イメージ
産業用スキャナーとは
工場の製品管理などで利用される、ハンディタイプのスキャナー。
「高い耐久性」「高速での読み取り」「精度の高さ」が必要。

速度に加え大切な「読み取り精度」

──読み取りの「速度」に続き、「精度」については工夫された点はありますか。

渡部さん:開発元としてQRコードリーダーアプリを出すからには、速く読めることは大前提であり、その中でも「より小さい」「より荒い」QRコードも確実に読めるようにしたいという「精度」へのこだわりがありました。

読み取りエンジンのアプリ搭載にむけた難所

──開発で難しかった点は何でしょうか。

渡部さん:スマートフォンアプリにエンジンを搭載した際にでるエラー解析に苦戦しました。エンジンは、スマートフォンアプリとは違う言語を使うため、まずはスマートフォンアプリの言語を理解するという初歩の初歩から勉強をしました。初めて何か取り組む際は当たり前かもしれませんが、大半は情報収集に時間を費やしていましたね。スマートフォンアプリへの搭載にあたっては、共同開発会社でありスマートフォンアプリの知見もあるアララ株式会社に相談しながら手探りで進めました。

「自分たちができる最高のもの」を目指して

渡部さん:QRコードは、決済や認証に使われ再度注目されています。ますます利用頻度が高まる中で、ストレスなく読める環境を追求していきたいと思っています。

「クルクル – QRコードリーダー」は、「他社より読み取り速度が速いものを作るのではなく、自分たちができる最高のものを作ろう」と思って開発したスマートフォンアプリですが、結果として他社より速いものになる自信もありました。

今後も「自分たちができる最高のもの」を目指し、曲がった面や凹凸のある面に記載したQRコードの読み取り性能の改善を続けるとともに新たな開発にも着手し、スマートフォンアプリへも展開してきたいと考えています。

*「QRコード」「フレームQR」は、株式会社デンソーウェーブの登録商標です。